ヒトラーの忘れ物 | 東海雜記

東海雜記

主に読書日記

「読書記録を綴る」と書いた早々、映画の感想を書く。
いい加減である。
それが私だ。
 
 
原題 Under sandet / LAND OF MINE
上映時間    101分
製作国    2015年 デンマーク/ドイツ
初公開年月    2016年12月
 
内容
1945年5月ドイツ占領下から解放されたデンマーク。しかし、西海岸には連合軍の上陸を防ぐための大量の地雷が残されていた。200万個以上もの地雷撤去を命じられたのは、異国に置き去りにされたドイツ兵たち。その大半は15歳から18歳の少年兵だった。
デンマーク人の殆どが知らされていなかった歴史の暗部を描く。
 
感想
悄然と引き上げてゆくドイツ兵たち。ジープですれ違ったデンマーク兵がいきなりその一人を殴りつける。
「その旗から手を離せ! それはお前たちのじゃない!」
何度も何度も執拗に殴るデンマーク兵。殴りつける腕は太く、胸板も厚い。その顔は怒りに満ち、怒りは狂気に満ちている。
冒頭のこのシーンに彼の人となり、怒りと悲しみがにじみ出ています。
 
この冒頭のシーンから、映画とわかってはいても、緊張の解けない場面の連続でした。
 
集められた少年兵たち。
「ナチスの罪を償え」と、地雷撤去を言い渡され、訓練を課せられます。
最初は模擬であったのが、実物を用いた訓練に。
そして大方の予想通り事故で命を落とす者が出てきます。
そんな短期間の訓練を終えた後に彼らが遣わされたのが、冒頭のシーンで登場した、愚直で粗暴な鬼軍曹ももとでした。
美しい砂浜を指差して、彼は言います。
「ここの地雷を全て撤去したら、ドイツに帰してやる」
 
 
「人間は変わることができることを描きたかった。」
監督のマーチン・サンフリートはそう語っています。
主人公である鬼軍曹の怒り、悲しみ、憎しみの背景は一切語られることはありません。観客である我々に想像が委ねられています。少年兵たちが食中毒になったのを「いい気味だ」とほくそ笑む農婦。彼女の憎悪についてもまた然り。
彼らの憎しみが赦しに変わることはできるのか。
 
対して少年たちは、彼らの「夢」を語ります。「祖国を復興させたい」「技師になりたい」「一緒に会社を作ろう」
彼らは本当にドイツに帰れるのでしょうか。
 
原題(デンマーク語の方)は「砂の下に」といった意味でしょうか。無味乾燥なタイトルゆえに、史実を描いたドキュメンタリータッチのこの映画に合っていると思います。
邦題も私は気に入っております。「忘れ物」は直接は地雷のことでしょう。拡大解釈すれば、取り残された兵たち、傷を受けた心、ドイツに対する憎悪。
古今東西、戦争を始める時、負けることを考えた指導者はいた/いるのでしょうか。自分の国の子供たちが、例えば「ドイツ人」というだけ理由で憎まれ、虐待されることを、その可能性を、はなから忘れてはいないでしょうか。
 
映画を見終わった後も、その圧倒的な内容にしばらく呆けていました。
危うく鞄を忘れるところでした。