東海雜記

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24時間戦えますか?  ――牛若丸三郎太

 

新潮文庫『総会屋錦城』

表題作は第40回直木賞(1958年度)受賞作、収録作品7編のうち2番目――1番目は表題作――の「輸出」は第4回文學界新人賞(1957年度)受賞作で、第38回直木賞(1957年度)候補にもなった作品。城山三郎の出世作となった2作を含む初期作品集。

 

私にとって城山三郎は大河ドラマ『黄金の日日』原作者であり、尾張徳川家14代及び17代当主徳川慶勝を描いた『冬の派閥』の作者(付け加えれば尾張藩研究者の林董一の義兄)という認識。「経済小説のパイオニア」と呼ばれているのは知っているものの「経済」というものが苦手な私は、彼の経済小説はあまり読んでいませんでした。

 

今あらためてこれらの作品を読むと、高度経済成長期前のサラリーマン社会の凄まじさに目を見張ります。この頃、昭和30年代は日本が国際社会に復帰したばかりで、先進国の仲間入りはまだ先の話。輸出振興が国是となり、各企業が文字通り死に物狂いで力を入れていた、とはいえ後に花形となる自動車の輸出量はまだ数千台。輸出品の主役は繊維でした。

「輸出」の主人公たちはミシン会社の外国駐在員。帰りたくても帰してくれない、エース社員でも使い物にならなくなれば馘首される。今でいう「ブラック」を凌ぐまさに暗黒。組織の非情、現場の不条理は戦時中の軍隊と変わらないのではないか。筆者のそんな思いがにじみ出ています。

 

私の若いころも「24時間戦えますか」とういCMソングが流行りまして、「ブラックだったのでは」なんて言われたりしますけれど、この時代、そして続く経済成長期の「モーレツ社員」に比べればはるかにましなのです。